世代で年金は本当に「払い損」なのか? 自作シミュレーターで検証してみた

シミュレーター公開(という名の供養)

世代で年金は本当に「払い損」なのか? 自作シミュレーターで検証してみた

更新日:2026年7月 読了時間:約6分+ツールで遊ぶ時間

「若い世代は年金を払うだけ損」——ネットでよく見かけるこの主張、実際のところどうなんだろう?と気になって、戯れに検証ツールを作ってみました。作り始めたのは2か月ほど前。途中で放置して構造も忘れかけている、完成とは言いがたい代物ですが、このまま眠らせるのも忍びない。ある意味これは、作りかけの中途半端品の供養記事です。

作った経緯

SNSや掲示板で「今の高齢者は払った保険料の何倍ももらえるのに、自分たちは払い損」という声を見かけるたびに、モヤモヤしていました。感覚的には正しそうに聞こえる。でも、昔と今ではそもそも物価も賃金も税率もまったく違います。当時の保険料の「重さ」を今の金銭感覚で測っていいのか?という疑問がずっとあったんですね。

それなら、物価上昇・賃金上昇・保険料率の推移・所得税率の歴史的変遷まで全部入れて、現在価値ベースで比較したら何が見えるのか。自分で計算してみようと思ったのが始まりです。

最初は世代別の倍率を出すだけの簡単なものだったのですが、作っているうちに「収入帯によっても違うのでは」「物価シナリオ別に見たい」「繰下げ受給の損益分岐も知りたい」と、機能を足しに足した結果……正直、付けすぎてわけがわからない感じになってしまいました。この点は先に白状しておきます。

シミュレーター本体

1955年〜2005年生まれを10年刻みで、さらに各世代を高所得(上位20%)・中間(中央値)・低所得(下位20%)に分けて、「払った保険料の現在価値」と「受け取る年金の現在価値」の倍率を計算します。対象は厚生年金なので、基本的にサラリーマン(会社員・公務員)向けです。自営業の方の国民年金は対象外なのでご了承ください。

スマホだと表とグラフが縦に長くなります。横画面か、PCでの閲覧のほうが見やすいと思います。

最低限これだけ触ってほしい3つの操作

機能が多すぎるので、ポイントだけ絞って紹介します。

① 「保険料の計上基準」を切り替える

これがこのツールの一番の肝です。厚生年金の保険料は労使折半なので、「労使合計」で見るか「本人のみ(給与天引き分)」で見るかで、倍率がちょうど2倍変わります。労使合計だと中間所得の若い世代は1倍を割って「払い損」に見えますが、本人負担のみで見ると約1.8倍で「払い得」に反転します。事業主負担分を「本来自分が受け取れたはずの賃金」とみなすかどうか——結論はこの一点の解釈で180度変わります。ネット上の議論が噛み合わない理由の大半はここだと思っています。

② 「物価シナリオ」タブを開く

個人的に一番面白いタブです。年金の名目額はマクロ経済スライドの調整があるため、物価上昇に完全には追いつきません。物価2%(日銀目標)が続くシナリオと、物価5%のシナリオで、受給期間中に年金の実質価値がどれだけ目減りするかがグラフで見えます。若い世代にとっての本当のリスクは「もらえない」ことより「もらえるけど実質価値が溶けていく」ことなのでは、というのが作っていて得た気づきでした。

③ 「あなたの前提で試す」スライダーを動かす

加入年数・受給開始年齢・寿命の増減を自分の想定に合わせられます。受給開始を70歳に繰り下げると年金額は+42%になりますが、累計受給額で65歳開始を追い抜くのは約82歳。この「損益分岐年齢」も自動で表示されるので、繰下げを検討している方は寿命スライダーと合わせて遊んでみてください。

触ってみて分かったこと(筆者の感想)

感想1

世代間格差は「ある」。ただし名目の保険料総額で比べた場合の差が最も大きく、物価・賃金で現在価値に補正すると縮小する。それでも傾向自体は消えない。

感想2

「払い損」かどうかは労使合計か本人負担かの定義次第。本人負担ベースならどの世代・所得帯でも1倍は超える。損得論争の前に前提の確認が必要。

感想3

実は世代間より所得帯間の差のほうが大きい。標準報酬月額の上限で高所得者の保険料は頭打ちになる一方、低所得者ほど倍率が高い。年金は所得再分配装置でもある。

感想4

若い世代の最大のリスクはインフレ。物価5%シナリオでは実質倍率が1倍を割るケースが出てくる。「年金だけに頼らない資産形成」の必要性を数字で再確認した。

作る前は「若い世代が一方的に損」というイメージがもう少し強かったのですが、計算してみると話はだいぶ複雑でした。特に高度成長期の高所得者は所得税+住民税の実効税率が50%近く(最高税率は1974年で93%!)、手取りに対する保険料負担は今より重かった。当時の人が楽をしていたわけでもない、というのは意外な発見でした。

このツールの限界と注意点

正直に書いておきます。このツールはあくまで公表データをもとにした個人の推計モデルで、限界がたくさんあります。

対象厚生年金のみ(国民年金・共済の単独評価は不可)
世帯モデル実質単身モデル(第3号被保険者の影響は未反映)
含まないもの遺族年金・障害年金の保険価値、消費税の逆進性
将来推計2005年生まれの給付水準は不確実性が大きい
年金は「保険」であって投資商品ではありません。倍率だけを見て損得を断定するのは本来なじまない、というのが筆者の立場です。あくまで議論の土台として使ってください。個別の受給額を正確に知りたい方は「ねんきんネット」をご利用ください。

まとめ——供養に代えて

戯れに作り始めたものが、思ったより深い沼でした。機能を足すたびに「あれも必要では」が湧いてきて、気づけば付けすぎて収拾がつかなくなり、飽きて2か月放置。再開したら自分でも構造を忘れていた——という、個人開発あるあるの見本のような経過をたどった作品です。

完成品として胸を張れるものではありませんが、このままローカルフォルダの肥やしにするよりは、誰かの目に触れる場所で成仏させてやりたい。「世代間不公平論」を感覚ではなく数字で眺めてみたい方には多少の需要があるはずだと信じて、ここに供養として置いておきます。

感想や「ここの計算おかしくない?」という指摘があれば、コメントでいただけると嬉しいです。データや計算式の間違いは随時直します。供養したはずのものに手を入れ続けることになりそうな気もしますが、それもまた個人開発ということで。

本記事について

本シミュレーターの設計・計算ロジックの実装にはAI(Claude)を活用しています。保険料率・給付乗率・税率の推移などのパラメータは財政検証・年金白書・賃金構造基本統計調査等の公表資料をベースにした推計値であり、簡略化のための仮定を多く含みます。内容の正確性には努めていますが、制度の詳細や最新の数値は必ず厚生労働省・日本年金機構の公式情報でご確認ください。

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